2011年 01月 17日
本来の筋肉の長さにもどす |
「からだを解き放つ アレクサンダー・テクニーク」
体・心・魂が覚醒する 谷村英司著からご紹介します。
▼生理学上の「内的筋肉」(筋紡錘)
もうひとつ私が勝手にそう推測していることなのですが、筋肉の生理学上、これはランドーン博士が言っている「内的筋肉」に相当するのではないかと思われるものがあります。それは、アレクサンダーの直弟子の一人であり、医師であったW・バーロウという人の著書『アレクサンダー・テクニーク』(伊東博訳・誠信書房)という本の中に書かれています。私は生理学の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、自分にわかる範囲で紹介しておきます。
この本によると、筋肉と神経の研究はかなり進んでいるのですが、それにもかかわらずその仕組みはあまりにも複雑すぎて、健常な人が休息しているとき、あるいは動いているときに実際に何が起こっているのかを筋肉生理学の上で説明することはほとんど不可能らしいのです。しかし、その中でもわかっていることがあります。筋肉は運動神経からの指令によってコントロールされているものなのですが、それには二つの系統のものがあるというのです。
ひとつの系統は、その指令によって筋肉を収縮させ、短くさせることによって、からだを動かすものです。かつては、筋肉の働きは唯一この種の働きだけだとされていました。そういえば、私が学生のころ、解剖生理学で筋肉は縮むことによって骨格を動かすのであって、それ自体では伸びないということを学んだのを憶えています。
実際、動きというものは筋肉が収縮するとによって骨格や関節が動いているわけです。例えば右の腕を前に出してみてください。そして右腕を水平に持ち上げ、肘から曲げ、そして元にもどすという単純な運動をしてみてほしいのです。
その動きを分析してみると、腕を曲げるときは、上腕の筋肉を縮めることによって動かしているのです。元にもどすときは、その上腕の裏側の筋肉(拮抗筋)をやはり縮めて動かしているのです。左手で右の上腕の筋肉を触りながらその動きをやってみると、縮めた瞬間にはその筋肉が短くなったり、硬くなったりするので、そのことが実感できるでしょう。これがいわゆる「外的筋肉」の働きと考えていいと思います。
ところが、筋肉はその種の働きだけではなくて第二の系統があったのです。それは解剖学上の筋肉の腹部内側にあり、「筋紡錘」と呼ばれています。この筋紡錘は、紡錘筋と呼ばれる横紋筋をもっており、脳や脊髄からくる神経である運動神経だけでなく、反対に脳や脊髄に向かう神経である感覚神経ももっています。それゆえに解剖学上の筋肉それ自体よりももっと鋭敏に筋肉を調節するものらしいのです。
この筋紡錘の働きは、収縮した筋肉を伸張させたり、過度に働いている筋肉を和らげたり、筋肉の力を無意識のうちに微調整することです。まっすぐ立ちつづけることができたり、正確にボールを投げられたりするのもその働きのおかげです。
これを読んだとき、筋紡錘の働きはまさに私が感じている「内的筋肉」の動きのことではないかと思ったわけです。さらにW・バーロウ氏は、過度に解剖学上の筋肉(外的筋肉)が縮小あるいは収縮した場合、筋紡錘が働かなくなってしまうとも指摘しています。
これは、先ほど紹介したパトリック・マクドナルドの「この力は私には自然なものと思われるが、もはや普通のものとは言えないものである」とか「確かなことは、文明人には力-Aが力-Bを支配しようとする顕著な傾向が見られ、その結果は明白である。からだを統合状態にもどすためには、力-Aを小さくして、力-Bを回復する必要がある」という見解によく符合しています。
そして、そういう場合は、筋肉がより良い休息のできる長さになるまで、筋肉を伸張させる方法を意図的に学習しなければならないとバーロウ氏は言っています。その方法がこのアレクサンダー・テクニークだと考えられるわけです。
▼ストレッチ運動との違い
こうして考えてみると、「外的筋肉」の働きは、先ほども言ったように"縮める"ことだということがわかります。縮めることによって骨格や関節を動かして運動が起こるわけです。この縮める機能がなければ、私たちは動くことができません。コップを取って何かを飲むとか、話すとか、日常でやっている簡単な運動でさえ複雑な筋肉を縮めて動かしているのです。私たちは生きている間じゅう動きつづけているわけですから、筋肉を縮めつづけていると言っても過言ではないでしょう。
このように筋肉を長年縮めつづけているとそのもどりが悪くなり、慢性的に短く、硬くなってしまうわけです。そのため関節の可動域が狭くなり、前章で示したように姿勢が悪くなってしまうのです。筋肉のもどりが悪いということは、筋肉自体の収縮力も落ちていくわけですから運動能力も低下します。
そこで、一般に考えられる対処法は、ヨガのアサナやストレッチをして筋肉を伸ばすということです。そうすることによって本来の筋肉の長さにもどすわけです。それはそれである程度は有効なことだと思います。これは「外的筋肉」のみを見た対処方法です。しかし、そういった運動も、アレクサンダー・テクニークのワークによって「内的筋肉」が活性化された上で行われると、さらなる効果が現れるのではないかと私は思っています。
なぜなら、筋肉のもどりが悪くなるのは、筋肉を縮めつづけることだけが原因ではなくて、その収縮した筋肉を元の長さにもどし、いつもみずみずしい状態に保とうとする「内的筋肉」の機能が低下していることにも原因があると考えられるからです。
事実、私が顧問をしている国際ヨガ協会において、このテクニークの原理を取り入れながらヨガのレッスンをしている人たちが増えており、この「内的筋肉」の活性化の重要性を理解することで、心身の相関性が実感をもって理解できるようになり、自分自身の身体に対してどう取り組んでいけばいいのかが明確になったという報告がぞくぞくとされています。
アレクサンダー・テクニークは、いわゆる「外的筋肉」を直接的に引っ張ったり伸ばしたりするストレッチ運動ではありません。「内的筋肉」を活性化させることによって、すべての筋肉に自然な伸張あるいは拡張が起こることをねらっているものなのです。先ほど紹介したパトリック・マクドナルドの「背骨はひとりでにそれ自身で伸びることを学ばねばならない」という言葉もそういう意味だったのです。
参照1:こころとからだにきく方法
参照2:からだの基本原理
参照3:筋紡錐・腱紡錐
参照4:コツを得た動きは「体感する力」が小さい
参照5:柔術を取り入れた施術の方法
参照6:身体全体を通して局所の問題を見る
参照7:「エンドゲイナー度」チェック!
体・心・魂が覚醒する 谷村英司著からご紹介します。
▼生理学上の「内的筋肉」(筋紡錘)
もうひとつ私が勝手にそう推測していることなのですが、筋肉の生理学上、これはランドーン博士が言っている「内的筋肉」に相当するのではないかと思われるものがあります。それは、アレクサンダーの直弟子の一人であり、医師であったW・バーロウという人の著書『アレクサンダー・テクニーク』(伊東博訳・誠信書房)という本の中に書かれています。私は生理学の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、自分にわかる範囲で紹介しておきます。
この本によると、筋肉と神経の研究はかなり進んでいるのですが、それにもかかわらずその仕組みはあまりにも複雑すぎて、健常な人が休息しているとき、あるいは動いているときに実際に何が起こっているのかを筋肉生理学の上で説明することはほとんど不可能らしいのです。しかし、その中でもわかっていることがあります。筋肉は運動神経からの指令によってコントロールされているものなのですが、それには二つの系統のものがあるというのです。
ひとつの系統は、その指令によって筋肉を収縮させ、短くさせることによって、からだを動かすものです。かつては、筋肉の働きは唯一この種の働きだけだとされていました。そういえば、私が学生のころ、解剖生理学で筋肉は縮むことによって骨格を動かすのであって、それ自体では伸びないということを学んだのを憶えています。
実際、動きというものは筋肉が収縮するとによって骨格や関節が動いているわけです。例えば右の腕を前に出してみてください。そして右腕を水平に持ち上げ、肘から曲げ、そして元にもどすという単純な運動をしてみてほしいのです。
その動きを分析してみると、腕を曲げるときは、上腕の筋肉を縮めることによって動かしているのです。元にもどすときは、その上腕の裏側の筋肉(拮抗筋)をやはり縮めて動かしているのです。左手で右の上腕の筋肉を触りながらその動きをやってみると、縮めた瞬間にはその筋肉が短くなったり、硬くなったりするので、そのことが実感できるでしょう。これがいわゆる「外的筋肉」の働きと考えていいと思います。
ところが、筋肉はその種の働きだけではなくて第二の系統があったのです。それは解剖学上の筋肉の腹部内側にあり、「筋紡錘」と呼ばれています。この筋紡錘は、紡錘筋と呼ばれる横紋筋をもっており、脳や脊髄からくる神経である運動神経だけでなく、反対に脳や脊髄に向かう神経である感覚神経ももっています。それゆえに解剖学上の筋肉それ自体よりももっと鋭敏に筋肉を調節するものらしいのです。
この筋紡錘の働きは、収縮した筋肉を伸張させたり、過度に働いている筋肉を和らげたり、筋肉の力を無意識のうちに微調整することです。まっすぐ立ちつづけることができたり、正確にボールを投げられたりするのもその働きのおかげです。
これを読んだとき、筋紡錘の働きはまさに私が感じている「内的筋肉」の動きのことではないかと思ったわけです。さらにW・バーロウ氏は、過度に解剖学上の筋肉(外的筋肉)が縮小あるいは収縮した場合、筋紡錘が働かなくなってしまうとも指摘しています。
これは、先ほど紹介したパトリック・マクドナルドの「この力は私には自然なものと思われるが、もはや普通のものとは言えないものである」とか「確かなことは、文明人には力-Aが力-Bを支配しようとする顕著な傾向が見られ、その結果は明白である。からだを統合状態にもどすためには、力-Aを小さくして、力-Bを回復する必要がある」という見解によく符合しています。
そして、そういう場合は、筋肉がより良い休息のできる長さになるまで、筋肉を伸張させる方法を意図的に学習しなければならないとバーロウ氏は言っています。その方法がこのアレクサンダー・テクニークだと考えられるわけです。
▼ストレッチ運動との違い
こうして考えてみると、「外的筋肉」の働きは、先ほども言ったように"縮める"ことだということがわかります。縮めることによって骨格や関節を動かして運動が起こるわけです。この縮める機能がなければ、私たちは動くことができません。コップを取って何かを飲むとか、話すとか、日常でやっている簡単な運動でさえ複雑な筋肉を縮めて動かしているのです。私たちは生きている間じゅう動きつづけているわけですから、筋肉を縮めつづけていると言っても過言ではないでしょう。
このように筋肉を長年縮めつづけているとそのもどりが悪くなり、慢性的に短く、硬くなってしまうわけです。そのため関節の可動域が狭くなり、前章で示したように姿勢が悪くなってしまうのです。筋肉のもどりが悪いということは、筋肉自体の収縮力も落ちていくわけですから運動能力も低下します。
そこで、一般に考えられる対処法は、ヨガのアサナやストレッチをして筋肉を伸ばすということです。そうすることによって本来の筋肉の長さにもどすわけです。それはそれである程度は有効なことだと思います。これは「外的筋肉」のみを見た対処方法です。しかし、そういった運動も、アレクサンダー・テクニークのワークによって「内的筋肉」が活性化された上で行われると、さらなる効果が現れるのではないかと私は思っています。
なぜなら、筋肉のもどりが悪くなるのは、筋肉を縮めつづけることだけが原因ではなくて、その収縮した筋肉を元の長さにもどし、いつもみずみずしい状態に保とうとする「内的筋肉」の機能が低下していることにも原因があると考えられるからです。
事実、私が顧問をしている国際ヨガ協会において、このテクニークの原理を取り入れながらヨガのレッスンをしている人たちが増えており、この「内的筋肉」の活性化の重要性を理解することで、心身の相関性が実感をもって理解できるようになり、自分自身の身体に対してどう取り組んでいけばいいのかが明確になったという報告がぞくぞくとされています。
アレクサンダー・テクニークは、いわゆる「外的筋肉」を直接的に引っ張ったり伸ばしたりするストレッチ運動ではありません。「内的筋肉」を活性化させることによって、すべての筋肉に自然な伸張あるいは拡張が起こることをねらっているものなのです。先ほど紹介したパトリック・マクドナルドの「背骨はひとりでにそれ自身で伸びることを学ばねばならない」という言葉もそういう意味だったのです。
参照1:こころとからだにきく方法
参照2:からだの基本原理
参照3:筋紡錐・腱紡錐
参照4:コツを得た動きは「体感する力」が小さい
参照5:柔術を取り入れた施術の方法
参照6:身体全体を通して局所の問題を見る
参照7:「エンドゲイナー度」チェック!
by centeringkokyu
| 2011-01-17 00:01
| アレクサンダー・テクニーク