2008年 06月 21日
教えなければ、考える |
「子ども・絵・色ーーシュタイナー絵画教育の中から」
としくら えみ著からご紹介します。
わたしは、しばらく前に作家の神津カンナさんの書かれた興味深い文章を見つけました。(『母のひかり』1990年1月号 キリスト教保育豊発行)
それは、『教えなければ、考える』と題された、カンナさんが母親から受けた教育のお話でした。
……子どもに質問はつきものである。目にするもの、耳にするもの、不思議に感じるもの、すべて、質問に変えて母親に尋ねる。
「これな一に?」
「どうしてそうなの?」
「なんでああなの?」
子どもは質問を連発する。もちろん幼いころのわたしも例外ではなかった。わりに言葉が早かったわたしは、ずいぶんとあれこれ質問をしては、おとなを困らせていたようである。
たいていのおとなは、そんなわたしの質問に、丁寧に答えてくれた。わかりやすく、細かく、おもしろく、おとなは苦心惨憺して、解答をひねり出し、わたしに教えてくれる。けれども、母だけは別であった。
たとえば母に「これな一に?」と電話機を指差して尋ねたとする。普通ならば、「これはね、電話と言ってね……」と、何かしらの答えをくれるのがおとなである。けれども母は決してそんなふうに説明はしてくれないのだ。まず驚いたような顔をして「あら!ほんとだ。不思議なものねえ。何かしら……」と大きな声を上げ、そして次に必ず言うのだ。「カンナ、これ、なんだろう?」
わたしが質問したのである。答えるのは本来ならば母の役目なのだ。
それなのに母は、答えを教えようともせずにわたしに同じ質問を投げ返すのである。何を質問しても、たいがいこんな調子だった。
だから次第にわたしは、自分で質問し、自分で考え、自分で想像して、自分で答える……という子どもになっていった。
母は後になってから、そのことについてこう説明してくれた。
「ある時にね、物干しにぶち下がっていた洗濯物から、しずくが垂れていたの。カンナはそれを見て〝あれはな一に?″と聞いてきたんだけど、わたしはわざと答えなかったのね。そしたらあなたはどうしたと思う?
"あれは泣いているのかな。でもきれいになって気持ちよくなったのに泣くのはおかしいよね。あ、でもうれしくても涙が出ることがあるか……"なんて、ひとりごとを言いはじめるじゃないの。その時にね、ああ、子どもっていうのは教えるばかりが教育じゃないんだ。教えずに自分で考えさせるのも大切だって、つくづく感じたのよ」
今の日本の教育というのは、幼児に対しても、高校生に対しても、あまりにも教え過ぎてはいないだろうか。もちろん教えなくてはならないことはたくさんある。しかし、知識の記憶ということに追われすぎていると、考えるという大切なポイントを忘れてしまうことも少なくない。決して思慮深いというわけではないけれど、少なくとも、考えることに億劫ではないという点に関しては、あの母の教育のおかげだと思っている。
後に、カンナさんのお母さんの中村メイコさんのエッセイ(朝日新開1996年12月2日夕刊)を見て、カンナさんが受けた教育の源が判りました。中村メイコさんのお父さんが「何もかも一律に揃いすぎる学校教育は嫌いだ」という考えから、寺子屋式マンツーマンで、メイコさんを家庭で教育されたのです。その学びの中で、「考えて出す答えはいくつもあっていい。○×で片づくのが人生じゃない」ということを言われたそうです。
このような発想ができることはとても大切だと思います。なんでもおとなから教えでもらったら、自分で考える力がつきません。答えはいつも一つというわけやはないんだと思っていたら、つまづいたり、壁にぶつかったときに、「じゃあ、こうやってみよう」という発想の転換ができるのです。
その人の家、地域や国ではあたりまえのことでも、違う所に来ると、答えがまるで変わってしまうことだってたくさんあるのですから。日本語で〝異なる″というと〝間違っている″とか、いけないことのようにとられがちですが、人がみんなそれぞれ少しずつ異なっているのはあたりまえのことなのです。
そういえば、幼稚園で子どもたちと何か考えるとき、答えを教えてしまわないで、「どうしてだろうねえ」と言うと、子どもたちはひとりひとりが自分で考え、「OOだからじゃない?」「△△だよ」と、次々に意見が出てきたことを思い出します。
#楽隠居です
私もこれからは、ウソを教えないで「どうしてなんだろうねぇ〜」と言うようにします。
天心の 誠の外に 物なきに おのが心で おのがたづぬる
所作を問ひ 心に答へ ひとり行く 道を知らずば 妙は有るまじ
どこまで行っても、自問自答しかないのかもしれませんねぇ〜
参照1:行き過ぎた干渉が招くもの
参照2:叱言以前
参照3:知的正直
参照4:武道歌撰集一之巻
by centeringkokyu
| 2008-06-21 00:03
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