2007年 09月 10日
特定栄養素の過剰摂取注意 |
トクホの問題点 桜美林大学大学院 老年学教授 柴田博
産経新聞 平成19年9月9日 朝刊の記事をご紹介します。
(1)適切な物が選ばれているか
(2)過剰摂取の問題
(3)飽和効果の問題
(4)機能の見誤り
このコラムの一回目に述べたように、食品には3つの機能があります。このうちの第3次機能は生体の免疫力や恒常性(ホメオスターシス)に関係しています。タンパク質・脂質・炭水化物の3大栄養素のみでなく、ビタミン、ミネラル、繊維などの微量栄養素もこの第3次機能に深くかかわってきます。
そこで、医薬品ではないけれども、この食品の第3次機能を濃縮した食品をつくりたいという欲求が起こっても不思議ではありません。そのような食品を欧米諸国では、機能性食品として売られております。しかし、わが国の薬事法では「食品の効能や機能を表示すること」が原則的には禁止されています。
そこで国の基準では、食品を特別用途食品、保健機能食品、一般食品に分け、保健機能食品に機能性食品のニュアンスをもたせております。この保健機能食品には「一保健の機能を表示できる特定保健用食品と栄養成分の表示ができる栄養機能食品があります。前者は、最近では"トクホ"などと呼ばれています。
一般食品の中にはいわゆる健康食品とその他の食品があります。これらが効果や機能の表示をすることは認められていません。食品はすべて健康によいはずなので健康食品というネーミングは奇妙なものです。最近では、怪しげな健康食品が害毒をもたらしているという話題に事欠きません。この健康食品という用語と同様にサプリメントという用語にも明確な定義はありません。
ともあれ、本欄では保健機能食品と、特定の栄養素を濃縮したタイプの健康食品やサプリメントに共通する問題を取り上げたいと思います。
毎日3食、バランスのよい食品を十分摂っている人々には"トクホ"やサプリメントは必要ありません。しかし、特定の病気のため長年低エネルギー摂取の食生活を続けている人、老化のための何らかの理由による摂食障害のある人、また仕事のためにどうしても特定の食品が不足する人には、"トクホ"やサプリメントが必要となることもあります。
"トクホ"やサプリメントを摂る場合、表にまとめた注意点が必要となります。まず、適切なものが選ばれているか否かです。たとえば、毎日100グラムの魚、20グラムの海藻、1パックの納豆を食べている日本人がいるとします。このような人が、毎日、EPA(エイコサペンタエン酸)のカプセル、ヨードの多いサプリメント、イソフラボンのカプセルを服用しているとしたらナンセンスです。ナンセンスなばかりか、過剰摂取の問題も起こってきます。
欧米の場合、1人1日平均30グラム以下しか魚介類を食べない国がたくさんあります。このような国の人々がEPAのカプセルを一定量服用することは問題ありません。しかし、日本人の場合、EPAの過剰摂取となります。まだ国は、EPAの摂取量の上限値を決めてはいません。しかし、EPAのような多価不飽和脂肪酸の過剰摂取は、体内に酸化物が出来過ぎて老化が進み寿命は短くなります。イヌイットがよい例です。海藻のヨード、大豆のイソフラボンの過剰腰取の問題もよく知られています。たとえ、必要な"トクホ"やサプリメントでも、濃縮されたために過剰摂取のリスクが高くなることはよくあります。
表(3)の飽和効果は、必要以上摂っても体に吸収されない場合などです。過剰に吸収されるより安全ですが、経済的にムダなことになります。
表(4)の機能の見誤りはよく起こることです。βカロチンをたくさん摂っている人が、がんになり難いというデータをみてβカロチンのサプリメントを服用してもらったところ、かえってがんが多発したという研究も記憶に新しいところです。βカロチンは見かけのみで、本当に機能していたのは、βカロチンの多い人がたくさん摂っていた他の栄養素(ビタミンC、繊維など)ということになります。
"トクホ"についてはこちらをどうぞ!
こんなニュースもありました。
◆75歳以上の医療費抑制、在宅医療に軸足・厚労省骨子案
NIKKEI NET 2007年9月4日
厚生労働省は4日、来春に始まる75歳以上の高齢者向け医療保険制度の診療報酬体系の骨子案をまとめた。膨張する高齢者の医療費を抑えるため、長期入院を減らし在宅医療に軸足を移すよう報酬体系を見直す。患者の病歴や服薬状況を一元的に管理する「かかりつけ医」的な役割を担う医師の報酬を優遇することで、投薬や診療の重複を防ぐ。過剰医療を減らし、効率化を進めることに重点を置く。
同省は骨子案を、4日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」に提示した。10月中にも中央社会保険医療協議会(中医協)に報告し、2008年度の診療報酬改定に反映する。
骨子案では外来、入院、在宅、終末期医療について、それぞれ医療機関に払う診療報酬で評価すべき事項を示した。外来医療では、患者の病歴や他の医療機関での受診状況といった情報を一元管理する医師への評価を上げることなどを盛り込んだ。患者の情報を集約する「かかりつけ医」のような医師を増やし、患者に余計な診療を他の医療機関では受けさせないようにするなどして重複診療などを防ぐ。
産経新聞 平成19年9月9日 朝刊の記事をご紹介します。
(1)適切な物が選ばれているか
(2)過剰摂取の問題
(3)飽和効果の問題
(4)機能の見誤り
このコラムの一回目に述べたように、食品には3つの機能があります。このうちの第3次機能は生体の免疫力や恒常性(ホメオスターシス)に関係しています。タンパク質・脂質・炭水化物の3大栄養素のみでなく、ビタミン、ミネラル、繊維などの微量栄養素もこの第3次機能に深くかかわってきます。
そこで、医薬品ではないけれども、この食品の第3次機能を濃縮した食品をつくりたいという欲求が起こっても不思議ではありません。そのような食品を欧米諸国では、機能性食品として売られております。しかし、わが国の薬事法では「食品の効能や機能を表示すること」が原則的には禁止されています。
そこで国の基準では、食品を特別用途食品、保健機能食品、一般食品に分け、保健機能食品に機能性食品のニュアンスをもたせております。この保健機能食品には「一保健の機能を表示できる特定保健用食品と栄養成分の表示ができる栄養機能食品があります。前者は、最近では"トクホ"などと呼ばれています。
一般食品の中にはいわゆる健康食品とその他の食品があります。これらが効果や機能の表示をすることは認められていません。食品はすべて健康によいはずなので健康食品というネーミングは奇妙なものです。最近では、怪しげな健康食品が害毒をもたらしているという話題に事欠きません。この健康食品という用語と同様にサプリメントという用語にも明確な定義はありません。
ともあれ、本欄では保健機能食品と、特定の栄養素を濃縮したタイプの健康食品やサプリメントに共通する問題を取り上げたいと思います。
毎日3食、バランスのよい食品を十分摂っている人々には"トクホ"やサプリメントは必要ありません。しかし、特定の病気のため長年低エネルギー摂取の食生活を続けている人、老化のための何らかの理由による摂食障害のある人、また仕事のためにどうしても特定の食品が不足する人には、"トクホ"やサプリメントが必要となることもあります。
"トクホ"やサプリメントを摂る場合、表にまとめた注意点が必要となります。まず、適切なものが選ばれているか否かです。たとえば、毎日100グラムの魚、20グラムの海藻、1パックの納豆を食べている日本人がいるとします。このような人が、毎日、EPA(エイコサペンタエン酸)のカプセル、ヨードの多いサプリメント、イソフラボンのカプセルを服用しているとしたらナンセンスです。ナンセンスなばかりか、過剰摂取の問題も起こってきます。
欧米の場合、1人1日平均30グラム以下しか魚介類を食べない国がたくさんあります。このような国の人々がEPAのカプセルを一定量服用することは問題ありません。しかし、日本人の場合、EPAの過剰摂取となります。まだ国は、EPAの摂取量の上限値を決めてはいません。しかし、EPAのような多価不飽和脂肪酸の過剰摂取は、体内に酸化物が出来過ぎて老化が進み寿命は短くなります。イヌイットがよい例です。海藻のヨード、大豆のイソフラボンの過剰腰取の問題もよく知られています。たとえ、必要な"トクホ"やサプリメントでも、濃縮されたために過剰摂取のリスクが高くなることはよくあります。
表(3)の飽和効果は、必要以上摂っても体に吸収されない場合などです。過剰に吸収されるより安全ですが、経済的にムダなことになります。
表(4)の機能の見誤りはよく起こることです。βカロチンをたくさん摂っている人が、がんになり難いというデータをみてβカロチンのサプリメントを服用してもらったところ、かえってがんが多発したという研究も記憶に新しいところです。βカロチンは見かけのみで、本当に機能していたのは、βカロチンの多い人がたくさん摂っていた他の栄養素(ビタミンC、繊維など)ということになります。
"トクホ"についてはこちらをどうぞ!
こんなニュースもありました。
◆75歳以上の医療費抑制、在宅医療に軸足・厚労省骨子案
NIKKEI NET 2007年9月4日
厚生労働省は4日、来春に始まる75歳以上の高齢者向け医療保険制度の診療報酬体系の骨子案をまとめた。膨張する高齢者の医療費を抑えるため、長期入院を減らし在宅医療に軸足を移すよう報酬体系を見直す。患者の病歴や服薬状況を一元的に管理する「かかりつけ医」的な役割を担う医師の報酬を優遇することで、投薬や診療の重複を防ぐ。過剰医療を減らし、効率化を進めることに重点を置く。
同省は骨子案を、4日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」に提示した。10月中にも中央社会保険医療協議会(中医協)に報告し、2008年度の診療報酬改定に反映する。
骨子案では外来、入院、在宅、終末期医療について、それぞれ医療機関に払う診療報酬で評価すべき事項を示した。外来医療では、患者の病歴や他の医療機関での受診状況といった情報を一元管理する医師への評価を上げることなどを盛り込んだ。患者の情報を集約する「かかりつけ医」のような医師を増やし、患者に余計な診療を他の医療機関では受けさせないようにするなどして重複診療などを防ぐ。
by centeringkokyu
| 2007-09-10 00:03
| 社会