2007年 05月 16日
柳生新陰流を学ぶ |
本当にすごい本が出ました。柳生延春先生が先頃お亡くなりになりましたので、柳生新陰流はどうなるのかと、少し心配していたのですが、このような素晴らしい本が出版されたので、私も新陰流に関してもうすこし探究してみたいという気になりました。後書きにあたる「おわりに」を転載します。
この本を私がなぜ書きたかったかは「はじめに」に書きました。ひとことで言うと新陰流を通しての「日本的な身体の復権」ということです。しかし当初はこんな「すごい本」になるとは思いもよりませんでした。これはひとえに江戸武士の柳生新陰流を伝える名古屋春風館道場の加藤館長の、柳生新陰流の全てを公開してよいという英断によります。
ここには新陰流の表太刀である「三学円の太刀」「燕飛」「九箇の太刀」、新陰流を創始した上泉伊勢守が「真実の人」にだけ伝えよと言った「天狗抄」、上泉伊勢守が柳生石舟斎宗厳に伝えながら、それ以降は失伝したと信じられてきた「七太刀」、そして春風館道場でも限られた高弟にしか教えられていない「奥義の太刀」と、柳生新陰流の全ての勢法が、術伝と共にイラストや写真を付lナて公開してあります。これは日本の武道の歴史始まって以来のことなのです。
もう一つ「すごい」ことは、春風館道場の伝える柳生新陰流は、幕末の尾張柳生十代宗家である柳生厳周が神戸金七に伝えた、江戸時代の武士が遣ったままの新陰流であるということです。明治以来、西欧近代の身体観が日本人の歩き方や体育だけでなく伝統武道にさえも大きな影響を与えていく中で、柳生厳周-神戸金七-加藤伊三男と伝えられた厳周伝新陰流は、江戸時代の武士の身体操作をそのまま伝えようとしています。西欧近代の身体操作が日本人には合わなかったのではないかという反省がなされている現代、厳周伝新陰流の身体操作に込められた江戸武士の叡智を学ぶ意義は大きいといえます。
この「すごい」本は、多くの人の力によって支えられています。
私には全てを教えてよいという加藤館長の指示があったとはいえ、新参者の私に厳周伝新陰流全般にわたって稽古をつけて下さっている下村幸裕さん、神戸信夫さん、川井武治さんたち高弟の方々。
毎週、鎌倉から名古屋に通うのを、「あなたのライフワークだから」といって寛大に認めてくれている妻・久美子。名古屋で私が学んできた技を確かなものとするための稽古台になって、共に厳周伝新陰流の研鑽に励む息子の大介。たくさんの人によってこの「すごい」本は支えられています。大介は私の主宰する「新陰流稽古『沈龍の会』」の指導員として厳周伝新陰流の普及に努めています。
私の会には一ヶ月に一度、春風館事務局長の下村先生に門人の手直しに来て頂いています。柳生の里の正木坂剣禅道場元師範・大坪指方伝の新陰流を受け継いでいるとはいえ、厳周伝の師範印可を受けていない私が厳周伝を名乗って新陰流を安心して教えられるのは、神戸金七から「唯授一人大事」の印可を受けている加藤館長のお許しと下村先生のご教示のお陰です。
埼玉県蕨(わらび)市で新陰流や中国武術の稽古会を主宰している岩波書店の小用茂夫氏との出会いも本書の大きなエネルギーとなっています。小用氏は現代に流布している新陰流に「絶望」して、伝統武術の原理を解明し修得するという目的のために独自の道を歩んでいます。たまたま私の「柳生厳周伝の研究(一)」に目を留められ、厳周伝に興味を持たれたのが二人の出会いのきっかけでした。
それ以来、たびたび神田の中華料理店「ぶん華」で酒を酌み交わしながら新陰流談義を続けています。小用氏も厳周伝新陰流を高く評価していますが、江戸時代の「柳生新陰流」ではなく、戦国時代末期の上泉伊勢守の「上泉新陰流」を求め続けているため、厳周伝新陰流にも厳しい議論をぶつけてきます。加藤館長は常々「この流儀というものは、相手から質問されてそれに答えられないようでは駄目」と言わていますので、小用氏との議論で生じた疑問を春風館に持ち帰って検証し、それをまた小用氏にぶつけるという繰り返しを続けています。この作業は厳周伝を客観的に見る目を私に与えてくれます。雑誌『剣道日本』のスキージャーナル社をご紹介下さったのも小用氏です。編集の鈴木智也さんは現代剣道に多くの疑問を投げかけている本書を快く受け入れてくれています。イラストは東京芸術大学の日本画科を出られ、人体の動きの描写にすばらしい才能を示されるイラストレーターの佐藤真紀子さんです。
これらの「すごさ」や「出会い」に支えられてこの本が誕生しました。日本人が日本的身体を取り戻すために、この本が少しでも寄与出来ればと願っています。
平成十九年四月 赤羽根龍夫
#楽隠居です
この中で紹介されている小用茂夫氏は、私の新陰流と大東流の先輩であり、形意拳の歩法を教えてくださった方です。
参照1:歩法について
【「柳生新陰流を学ぶ」では、観念的な用語である「西江水」に関しては触れないと書かれていますが、「西江水」や「吊り腰」は、膝と足の基本や頭の据え方と共に、私にとっては重要な用語です。私の考えていることが正しいとは限りませんが・・・】
参照2:柳生宗矩と江戸思想
参照3:柳生十兵衛の使命
参照4:柳生新陰流の亜流?
by centeringkokyu
| 2007-05-16 00:00
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