2010年 08月 23日
潜在意識 |
「心霊の文化史 ―― スピリチュアルな英国近代」吉村正和著からご紹介します。
▼潜在意識
序論ではまず、科学がこれだけ進歩したにもかかわらず、人格の死後生存という重要な問題には科学的な方法論が適用されてこなかったことが指摘される。人格の死後生存については個人の信念の領域に属しており、観察と実験という方法は適切ではないとされたのである。伝統的にはキリスト教が死後の問題を引き受けており、もう一度原点に戻って確認するという雰囲気はなかった。心霊主義の流行により1870年代には物理学者ウィリアム・クルックスが科学的な調査を試みており、80年代には心霊研究協会により組織的な研究調査が続けられた。マイヤーズは何よりも自分の研究が心霊主義の科学的な分析であること主張する。
マイヤーズの立論の基礎には潜在意識という概念がある。意識の世界には記憶に留まる部分と、記憶に残らない部分がある。マイヤーズは、その境界を意識のリメン(limen)と呼び、その上にあって記憶される部分を顕在意識、その下にあって記憶されない部分を潜在意識(サブリミナル)と呼んだ。潜在意識は、通常の状態では意識には上ってこないが、何かの原因でふいに意識に現われる性質をもっている。
潜在意識が存在することは、スペクトルというマイヤーズお気に入りの比喩を便っで説明される。通常の視覚では太陽光線は光としてしか認識されないが、プリズムなど分光器を通して見ると波長の違いによって赤や紫など異なる色に分解されるだけでなく、可視光線の外側にも光線が存在することが確認される。マイヤーズは、同じことが意識についても起こると考えて、可視光線に当たる部分を顕在意識、その外側に存在しているが人間には知覚されない光線を潜在意識と名づけたのである。さらに、人間の意識が潜在意識と顕在意識から成っていることは、チェスのゲームでも説明される。チェスを横で見ている人にとってゲームはコマの動きから成っているが、動いていないコマもゲームに参加している。実際に動くコマは顕在意識に相当し、動かないコマは潜在意識に喩えられる。
潜在意識が起動するには、まず人格の分解という事態が起こる必要がある。個人の人格は通常の場合において、私は昨日も明日も私であるという意識の連続という点において統一性を維持している。しかし、たとえばトランス状態に入った場合のように、この連続性が途切れて通常の人格が失われでしまうことがある。精神医学はヒステリー症状として健忘・失語・痛覚麻痺・痙攣などの実例を挙げているが、このような症状も人格の分解の事例ということができる。自己暗示によって患者は意識の境界を超えて潜在意識の世界に入り、通常では知覚できないような幻覚や幻聴を経験することがある。やはり自己暗示によって、自分の能力をはるかに超えた力を発揮して、たとえば日常生活では持ち上げることができないものを軽々と持つことができたりする。自己暗示が精神の変容をともなうときには第二人格が形成されるが、その結果として精神的な抑圧などからの解放が観察される場合が多い。中世の悪魔憑きの症例や、それとは正反対の聖人・聖女の召命感などは、いずれも人格が分解して潜在意識が起動することによって生まれる。
▼天才における潜在意識の奔出
人格の分解によって個人が日常生活を送ることができなくなる場合もあれば、逆に人類の進歩と発展に結びつく場合もある。天才は、潜在意識を自然なかたちで起動することのできる能力を備えた人であり、いわゆる霊感は潜在意識の奔出(subliminal uprush)という現象である。潜在意識の奔出は一種の自動現象である。潜在意識には天才の霊感のように善なる結果を生むものだけではなく、その逆の結果を生むものも含まれているということも注意すべきである。天才は自然なかたちで自分の潜在意識と交信することのできる稀有な存在であり、顕在意識と潜在意識の間に特殊な経路が地下水脈のように開かれている人である。天才は数学・物理学・音楽などさまざまな分野に登場するが、マイヤーズがもっとも注目しているのは詩人である。
マイヤーズは実際に、ワーズワースの詩学における想像力の理論と、自分の潜在意識とテレパシーに関する理論を結びつけている。ワーズワースの主著『序曲』第六巻には、想像力が魂の最奥部から流出する場面があるが、マイヤーズはその場面が潜在意識と顕在意識との関係を詩的に表現したものであると指摘している。潜在意識のレヴェルにおいて人は、互いに共感し感応しあうことができるのである。ワーズワースが想像力によって、人間と人間が精神的に交感するだけでなく、人間と自然との交感が可能となると確信していたように、マイヤーズはテレパシーによって潜在意識と顕在意識の交感が成立すると考えていた。したがって、テレパシーとはたんに以心伝心の現象というだけでなく、人間全体の精神的な交感を可能にする霊的原理であるということになる。
マイヤーズは、心霊現象だけでなく、宗教や芸術などの本質についても潜在意識とテレパシーによって説明しようとしている。潜在意識の世界に入ることは他者との共感関係に入ることを意味しており、伝統的な言葉でいえば「愛」という現象にも関係する。マイヤーズの場合にはキリスト教的な愛というより、実際にプラトンの『饗宴』を引用しているように、ディオティマが定義しようとした絶対美につながる内容となっている。マイヤーズの念頭にあったのは自殺したアニーの霊との交信であり、「愛は、高貴な、しかし特定はされていないテレパシーである。すなわち、霊と霊の相互の引力あるいは血縁関係のもっとも単純で普遍的な表現である」と述べているように、その可能性はテレパシーによって開かれると考えたのである。
参照1:合気道入門
参照2:やればやるほど気づきが生まれる
参照3:体の声を聞く
参照4:ホメオスタシス
参照5:こんなにチョロい大衆の騙し方
参照6:「感化力」はすべて「心の誘導」によって起きている
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感想文22
楽しさ=必死=夢中
「意識」についての「走り書き」
▼潜在意識
序論ではまず、科学がこれだけ進歩したにもかかわらず、人格の死後生存という重要な問題には科学的な方法論が適用されてこなかったことが指摘される。人格の死後生存については個人の信念の領域に属しており、観察と実験という方法は適切ではないとされたのである。伝統的にはキリスト教が死後の問題を引き受けており、もう一度原点に戻って確認するという雰囲気はなかった。心霊主義の流行により1870年代には物理学者ウィリアム・クルックスが科学的な調査を試みており、80年代には心霊研究協会により組織的な研究調査が続けられた。マイヤーズは何よりも自分の研究が心霊主義の科学的な分析であること主張する。
マイヤーズの立論の基礎には潜在意識という概念がある。意識の世界には記憶に留まる部分と、記憶に残らない部分がある。マイヤーズは、その境界を意識のリメン(limen)と呼び、その上にあって記憶される部分を顕在意識、その下にあって記憶されない部分を潜在意識(サブリミナル)と呼んだ。潜在意識は、通常の状態では意識には上ってこないが、何かの原因でふいに意識に現われる性質をもっている。
潜在意識が存在することは、スペクトルというマイヤーズお気に入りの比喩を便っで説明される。通常の視覚では太陽光線は光としてしか認識されないが、プリズムなど分光器を通して見ると波長の違いによって赤や紫など異なる色に分解されるだけでなく、可視光線の外側にも光線が存在することが確認される。マイヤーズは、同じことが意識についても起こると考えて、可視光線に当たる部分を顕在意識、その外側に存在しているが人間には知覚されない光線を潜在意識と名づけたのである。さらに、人間の意識が潜在意識と顕在意識から成っていることは、チェスのゲームでも説明される。チェスを横で見ている人にとってゲームはコマの動きから成っているが、動いていないコマもゲームに参加している。実際に動くコマは顕在意識に相当し、動かないコマは潜在意識に喩えられる。
潜在意識が起動するには、まず人格の分解という事態が起こる必要がある。個人の人格は通常の場合において、私は昨日も明日も私であるという意識の連続という点において統一性を維持している。しかし、たとえばトランス状態に入った場合のように、この連続性が途切れて通常の人格が失われでしまうことがある。精神医学はヒステリー症状として健忘・失語・痛覚麻痺・痙攣などの実例を挙げているが、このような症状も人格の分解の事例ということができる。自己暗示によって患者は意識の境界を超えて潜在意識の世界に入り、通常では知覚できないような幻覚や幻聴を経験することがある。やはり自己暗示によって、自分の能力をはるかに超えた力を発揮して、たとえば日常生活では持ち上げることができないものを軽々と持つことができたりする。自己暗示が精神の変容をともなうときには第二人格が形成されるが、その結果として精神的な抑圧などからの解放が観察される場合が多い。中世の悪魔憑きの症例や、それとは正反対の聖人・聖女の召命感などは、いずれも人格が分解して潜在意識が起動することによって生まれる。
▼天才における潜在意識の奔出
人格の分解によって個人が日常生活を送ることができなくなる場合もあれば、逆に人類の進歩と発展に結びつく場合もある。天才は、潜在意識を自然なかたちで起動することのできる能力を備えた人であり、いわゆる霊感は潜在意識の奔出(subliminal uprush)という現象である。潜在意識の奔出は一種の自動現象である。潜在意識には天才の霊感のように善なる結果を生むものだけではなく、その逆の結果を生むものも含まれているということも注意すべきである。天才は自然なかたちで自分の潜在意識と交信することのできる稀有な存在であり、顕在意識と潜在意識の間に特殊な経路が地下水脈のように開かれている人である。天才は数学・物理学・音楽などさまざまな分野に登場するが、マイヤーズがもっとも注目しているのは詩人である。
マイヤーズは実際に、ワーズワースの詩学における想像力の理論と、自分の潜在意識とテレパシーに関する理論を結びつけている。ワーズワースの主著『序曲』第六巻には、想像力が魂の最奥部から流出する場面があるが、マイヤーズはその場面が潜在意識と顕在意識との関係を詩的に表現したものであると指摘している。潜在意識のレヴェルにおいて人は、互いに共感し感応しあうことができるのである。ワーズワースが想像力によって、人間と人間が精神的に交感するだけでなく、人間と自然との交感が可能となると確信していたように、マイヤーズはテレパシーによって潜在意識と顕在意識の交感が成立すると考えていた。したがって、テレパシーとはたんに以心伝心の現象というだけでなく、人間全体の精神的な交感を可能にする霊的原理であるということになる。
マイヤーズは、心霊現象だけでなく、宗教や芸術などの本質についても潜在意識とテレパシーによって説明しようとしている。潜在意識の世界に入ることは他者との共感関係に入ることを意味しており、伝統的な言葉でいえば「愛」という現象にも関係する。マイヤーズの場合にはキリスト教的な愛というより、実際にプラトンの『饗宴』を引用しているように、ディオティマが定義しようとした絶対美につながる内容となっている。マイヤーズの念頭にあったのは自殺したアニーの霊との交信であり、「愛は、高貴な、しかし特定はされていないテレパシーである。すなわち、霊と霊の相互の引力あるいは血縁関係のもっとも単純で普遍的な表現である」と述べているように、その可能性はテレパシーによって開かれると考えたのである。
参照1:合気道入門
参照2:やればやるほど気づきが生まれる
参照3:体の声を聞く
参照4:ホメオスタシス
参照5:こんなにチョロい大衆の騙し方
参照6:「感化力」はすべて「心の誘導」によって起きている
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感想文22
楽しさ=必死=夢中
「意識」についての「走り書き」
by centeringkokyu
| 2010-08-23 00:01
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