2009年 02月 01日
肩と胸とを柔らかく使う |
月刊「秘伝」2001年9月号からご紹介します。
胴体力の観点からみた 岡本師範の身体操作
▼胸と肩の細分化がカギ
ーーさて、伊藤先生は著書の『スーパーボディを読む』でも、胴体力を伝える胸の動きの項で岡本先生を紹介されていますね。
伊藤 岡本先生はもちろん全体が動いているのですが、特に胸と肩が柔らかく、胸(肋骨)全体がダイナミックに動いています。ほとんどの人が、これらが一緒に動いてしまうので、腕や胸ぐらを捕まれた時に支点ができてしまうんですね。これが岡本先生の場合はなくなってしまうので、持った実感すらないでしょう。肩とこの胸とを柔らかく使うということは細分化ができていないとむずかしいのです。
ーー普通の人ではそこが癒着していると……。
伊藤 癒着というとなにか溶接されたようなイメージとなってしまいますが、要は力が入ってしまって一緒に動いてしまうということです。いわば、硬直した使い方をしてしまっているわけです。これを柔らかく使えるようになることで、岡本先生の動きに近づいていけると思います。
ただ、これらはあくまで原理であって、技術に入る前の段階なのです。「これを使って技にしてはどうか」というもので、そこからどんどん精妙な技へと発展させていくことだと思います。岡本先生に接しても多くの人は、手をどう動かしたとか微調整のところを見てしまうんですね。その根本である胴体を見れば、ものすごく動いていることが分かるのではないでしょうか。
ーー岡本先生ご自身、技へ入るタイミングといったものをより重視されているように思いますが、ご自身で出力している技の威力も相当なものと思えますね。
伊藤 私が通っていた当時、「首に入れる」といって、合気をそこへ向かって入れるのだと指導されていましたが、相手の運動神経を混乱させる作用は通常の柔術系の技法とはかなり異質な部分だと思います。いわゆる胸合気などで胸を持ったときには大きな岩がドーンとぶつかってきたような衝撃があるわけで、持っている手首を壊してしまうような技ともなります。しかし、実際の稽古ではほとんどの場合、優しくきて、優しく投げていただきましたが……(笑)。
ーー首に入れて運動神経を混乱させるというお話がありましたが、今回もライターのひとりが「岡本先生の技は延髄など運動を司る部分へ直接衝撃を与えることに関係があるのではないか」と推論していましたが、その点ではいかがでしょうか。
伊藤 そうした面もあるかもしれませんが、衝撃を使った技ばかりではありませんからね。岡本先生の技は今はもっと精妙なものとなっているのではないかと思います。人体はいくら強固に踏ん張っていても、ちょっと肩の位置がズレるだけで簡単に崩れてしまいます。
ーー伊藤先生が提唱される胴体の3つの動き(「伸ばす・縮める」「丸める・反る」「捻る」)の中では、岡本先生はどの動きを得意とされているのでしょうか。
伊藤 岡本先生は「丸くなる・反る」の動きをより多用されていると思います。中でもやはり胸自体があれだけ勤く方は稀でしょうね。肋骨自体の動きも非常に大きいものがあります。通常では、どうしても手や肩が早く(先に)動いてしまうものですが、「丸くなる・反る」の運動で胸(肋骨)の動きをできるようにすることで、岡本先生に少しでも近づくことができると考えます。これはできてしまえば、手や肩が先に動いても関係なくなるのです。
原理だけを抽出すれば、武術の技の一つひとつは何もむずかしいことはありません。それを場面場面に合わせる(発揮する)ことがむずかしいのであって、原理が分かっていれば、だれにでもできることで構成されているのが武術なのです。
ーー伊藤先生が実質的に岡本先生の道場へ通われたのはどのくらいの期間だったのでしょうか。
伊藤 3年間くらいでしたが、二段までいただいております。私が通っていたほぼ同時期には出口衆太郎さん、のちに高木一行さん、陳孺性として本を出された谷口哲郎さんなどが来ていました。中国拳法や古流武術をされていた小用茂夫さんが特に印象に残っています。
岡本先生の当時の指導とその示される技は、他の武道をやっている人にとっても大きな勉強になりました。
ーー本日は、ありがとうございました。
#楽隠居です
この2001年9月号でも小用茂夫氏は、「道場の外で、岡本正剛先生の合気と格闘す」という文章を寄せておられます。その中で『合気修得にはその特徴に見合った修得法が必要となる。合気はそもそも最も伝えがたい領域を伝えるものである。修行者はそれを身体で聴きとる能力を持たなければならない。それをどう創るかは修行者の側の課題となる。合気を受ける受け皿である身体能力を不断に高めていくほかはない。合気の理解も身体能力の水準によって変化してくる。合気ときっちり正対していけばそれは必ず可能なはずだ。これは私が習っていたときに「こうしておけば良かったのに」という悔悟でもある。』と書かれていたのが印象的でした。
下の写真は「秘伝」2002年10月号に掲載されていたものです。
by centeringkokyu
| 2009-02-01 00:03
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