2009年 01月 06日
得体の知れない力 |
「心身一如の身体づくり 武道、そして和する“合気”、その原理・歴史・教育」原尻英樹著からご紹介します。
▼柔弛緩力
当時の私の課題は、柔弛緩力を技として使える人にお会いして、直々に指導をしていただくということであった。これ以外に、柔弛緩力を修得する道はないと考えた。とのときは、ちょうど私の職場が静岡から京都に変わったときでもあった。私は、インターネット等で、合気のできる先生がいらっしやる道場を探し出すことに努めた。そして、ひとつの道場をやっと探し出し、その道場の見学に行くことになった。先生は、前川信雄師範で、小学生の指導をされている時に見学にうかがい、この先生は合気の出来る方であることが、すぐさまわかった。小学生相手ではあったが、力の弱い小学生と気を合わせ(合気)、しかも、全力で技をかけられていた。通常、小学生と気を合わせ、しかも全力で技をかけることは、大人相手よりも難しいのであって、合気ができなければこのようなことは不可能であると考えられた。
前川師範の合気道修行は高校時代に遡るが、合気修得は、大東流合気柔術の岡本正剛先生のご指導によって、四〇歳のときであったという。「岡本先生の道場で、最初に小手を握ったときに、柔らかいことに驚いた」と前川先生はおっしゃった。これが、柔弛緩力である。この道場での合気修得は、先生の指導のもと、合気あげを繰り返すことで達成されるといえる。相手がこちらの小手を持とうとする瞬間、相手との接触面での密着度を増し、かつ、接触面は、柔らかい状態にする。
具体的にその過程を説明すると以下のようになる。合気とは、現象的には、自分と相手が接触した瞬間に技を掛け、相手は、一種フリーズ状態になる究極の技である。この修得のための稽古は、相手がこちらの腕(小手)をつかみにきて、そのつかみにきた手が自らの小手と離れないようにして、技を掛けるということを行う。厳密にいえば、稽古においては、つかみ方なり、つかむ力なり、そしてつかむ角度は、ひとつとして同じものはない。このような多様性の中で、相手と自分が気を合わせること(合気)によって、不変の形を体得し(しかも、その形とは、お互いの動きの流れのなかでの形であって、じっとしている、いわば「居着いている」型ではない)、自分の個性に合わせた形を創り上げていく。
まず、相手の攻撃の方向に、押し返すのではなく、英語でいえばpenetrate(貫く、稽古用語では、「相手にくれてやる」)して、日常的な生活にはあり得ない反応をすることで、相手をいわば身体的なパニック状態にし、同時に相手と接触している部分は柔らかくして(つまり「平和状態」)、これまた通常はあり得ない状況にしておく。しかも、相手を貫く力は、屈筋ではなく、伸筋を使い、かつ、接触のない部分から発するので、相手はどこから力が加わったのか、体でもそして頭でも感得することができない。ただ、相手方の反応は、こちらの体の動きにそのまま順応した動きになるので、楽に相手の身体をコントロールすることができるのである。これによって、合気あげがスムースにできることがわかる。
剛弛緩力から柔弛緩カへの転換は、相手との接触面を増すために、思い切り手を開くのではなく、相手に対して「手をくれてやる」ことで可能となり、しかも、これによって接触面は柔らかい状態にもできる。つまり、相手との接触のあり方を相手と気を合わせることで(呼吸も合わせることで)コントロールして、相手がこちらの手を持ちやすい、あるいは持って離せない状態にするのである。但し、修得のプロセス論においては、まず、剛弛緩力の修得が必要であり、その修得のあとに柔弛緩力の修得が達成可能であるといえる。なぜならば、通常、力を入れて手を持たれた場合、引くかあるいはその場で固定してしまうという日常的な動作が生じてしまうので、それを武道的動作に変換するためには、手を開いて、伸ばす運動を繰り返すことで、伸筋コントロールができるようになると同時に、前に詰めていくことが可能になるからである。詰めのない状態とは、隙間ができたそれであり、それは必然的に、相手との間にスキができることを意味する。
▼波動としての合気
さらに、持たれた手を合気あげであげることは、小手の伸筋力に依っているといえるが、稽古を繰り返していくと、伸筋の連鎖が自覚できるようになり、小手、腕、肩、それに背筋と合気あげに関わる伸筋の範囲が広がってくる。つまり、小手の合気から体の合気となり、体全体で合気をかけられるようになる。換言すれば、一連の流れのなかで、身体各所の骨(もちろんへ解剖学的には骨を動かすのは筋肉であるが、動きとなって表現されるのは骨を通してである)を連鎖的に動かし、身体内で波(波動)を作り、その波を身体の接触面に伝えることで、合気をかけることになる。特に、日常的な生活ではほとんど使わない、あるいは使っていることを意識化していない、骨を瞬間的に動かし、かつ波動の連鎖反応を起こすことで、瞬時に、相手に合気をかけることが可能になる。相手は、どこから働いているのかわからない、「得体の知れない力」によって、ただコントロールされるのみの状態になる。
#楽隠居です
合気に関する私の考え方は、これまでに何度も書いていますので、ブログ内検索をしていただくとして、「引きと攻め」と「接触面を点にする」という要訣は必要条件だと思います。岡本正剛先生関連の記事をご紹介しておきますので、参考にしてください。
参照1:本当の合気とは
参照2:奥伝 大東流合気柔術
参照3:体全体が呼吸をする
参照4:合気上げ下げ
参照5:幻の神技 大東流合気柔術
参照6:条件反射・円・呼吸
参照7:合気道の奥義
参照8:合気とりあえず理論
参照9:甲野理論のパントマイム的解釈
参照10:詩を生む身体
by centeringkokyu
| 2009-01-06 00:03
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