2009年 01月 05日
手で触れてその感触を味わう |
「日本刀は素敵」佐野美術館館長 渡邉妙子著の“あとがき”から抜粋してご紹介します。
私は、日本刀のコレクションで知られる佐野美術館(静岡県三島市)に長い間勤務しているうちに、すっかり日本刀とのかかわりが深くなってしまいました。日本刀の美術館関係者、愛好者やコレクターなど、日常の交流は年輩者が多いのですが、数年前から若い人たちに日本刀の話をすることになりました。
その若い人たちとは、三島市内の静岡県立高等学校一年生の生徒たちで、私の日本刀の体験講座を年に一回、当館で受けています。驚かれる方も多いかと思いますが、これは美術担当の女性教師の熱心な要請に応えて始めたのです。この講座を始めた最初の年、佐野美術館の規定では特別鑑賞は有料となっている旨申し上げたところ、希望する生徒に負担させます、というのです。私は、それは親が承知しないだろうと思っていたのですが、当日になると、なんとクラスの生徒全員が鑑賞料の千円ずつを持参して集まったのです。
授業は、最初の三十分間、日本刀の特色と武士道について話します。あと一時間をかけて、鎌倉時代と江戸時代の名刀をそれぞれ一口、一人ずつ手に取って持ち上げ、再びもとの位置に置くことをさせます。場所は佐野美術館内の隆泉苑の日本間です。
講話の時には足を崩すことを認めますが、日本刀を手にするときは正座を要求します。そして、刀の前で深々と礼をしなければなりません。正座と礼ができない人は、刀を手にすることはできません。驚きました。足の痛いのを我慢して全員が正座を続け、刀の前で、おそらく生まれて初めてとも思える見事な礼をするのです。
女性教師は、この日本刀授業のあと、生徒が変わるのだと言います。どう変わるのか、本当に変わったのが分かるのは何十年後のことかもしれません。でも、部屋に入ってくるときと出て行くときとでは、すでに生徒たちの姿勢が変わったなと感じました。
これは、大変なことだと思いました。百聞は一見に如かず、手に持つという体験は、これに優るものはないのでしょう。生徒たちは貴重な文化財の日本刀を手にして、きっと何かを学んだのでしょう。
美術品の鑑賞は、手に触れないことを原則としていますが、日本人は殊のほか、手の感触を楽しむ民族のようです。子どもばかりでなく、大人も手にすることを喜びます。以前、ドイツのボンにある家具博物館を訪れたところ、見事な時代物の家具が露出展示されていました。私は来館者が手を触れるのではないかと心配になって、監視員に尋ねてみま七た。
すると監視員は、「ヨーロッパでは、美術品などの展示物には手を触れてはいけないということを子どもの時に躾られているので、決して触りません。一番困るのは日本人で、ほとんどの日本人は手で触ろうとします」という答えが返ってきました。私は申し訳ないと詫びを入れつつ、日本人の特性に気付かされました。私たちは物を見ると同時に、手で触れて、その感触を味わおうとする性癖が強いようです。
茶道の場では、黒楽茶碗などを鑑賞するのに、先達は見所をいろいろと示してくれます。それに沿って深く鑑賞しようとすれば、茶碗を手に取らなければなりません。でも、一度手にしたことがあれば、展示ケース内にある茶碗でも、目で観ただけで手の感触がよみがえり、理解を助けるのです。
日本刀の愛好家たちは、鑑定会をよく開きます。それは茎(なかご)の銘を隠して、誰の作か当てる競技です。鑑定会では、実際に刀を手にとって見なければ、本当の鑑定はできません。手に取って刀の重さを実感し、姿・形を確かめ、刃文を鑑賞し、初めてこの刀の生まれた時代や場所、そして刀工の姿が浮かんでくるものなのです。
日本刀を一度手にしたことのある人は、ガラスケース内に展示してあるものでも鑑賞しやすいというか、想像してみることができるのです。ですから、日本刀展の開催の折には、参観者に見本の刀を手にとって見せられるようにしたいなあと、いつも思います。現実は、なかなかそのような場は設けられませんが。
#楽隠居です
私も時々、日本刀や槍の手入れをするのですが、斬る為の道具であるというよりも、自分の身体の歪みを自覚し、体内操作を検証するための道具だと考えています。刀の長さや重さ、反りやバランスと共に重要視しているのは、柄の形状と手の内の感触です。
ですから鍔や縁・頭も十分吟味する必要があるはずだと考えています。といっても、名刀や高価な道具類を揃えることは出来ませんので、自分が出来る範囲で楽しんでいます。
今月から3月まで、合気観照塾では歩法と剣の素振りがテーマになります。今年も何か新しい気づきができればいいのになぁ〜と、漠然と考えている今日この頃です・・・
参照1:道具を工夫しての合気練功
参照2:今年の稽古方針'07
参照3:バランスと勢い、そして歪み
参照4:すでに教えて頂いていました
参照5:剣を使った呼吸力養成法
参照6:道具に遊ぶ
参照7:忍者走り
参照8:絶対やめよう「つま先走り」
参照9:ひざと足の基本
参照10:合力は強い
参照11:投げない柔術 振らない剣術
参照12:剣道修行と呼吸
by centeringkokyu
| 2009-01-05 00:01
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